高齢の方には食事の介助が必要な場合があります。
高齢になると、さまざまな理由で自力での食事が難しくなってくるためです。
介護が必要な高齢者にとっても、食事の時間は心から楽しんでほしいものです。
しかし、介助の方法が間違っていると、その食事自体が苦痛になってしまうことがあります。
高齢者の食事介助にとって大切な食べる意欲、安全な食事、食生活、環境づくり、食事介助の手順とやり方について解説していきます!
Contents
高齢者の食べる意欲を伸ばす
「食べること」は高齢者の活力のもとになります。食事は利用者にとって毎日の楽しみのひとつです。
しかし高齢になると、噛む力や飲み込む力が弱くなり、食べたいものを食べることが難しくなってきます。
介護職員は、利用者の食べる意欲を伸ばすような介護を目指しましょう。
「口」からものを食べることが大切
食べることは、生きるために欠かせないことのひとつです。
しかし、栄養さえとっていれば元気に過ごせるのかというとそれは違います。
というのも、「口からものを食べる」行為自体に大きな意味があるからです。
人は、食事によって必要な栄養をとっていることはもちろんですが、同時に、食べ物をみたり、噛んだり、飲み込んだりすることによって、さまざまな刺激を受け取っています。
そして、その刺激情報が脳に伝わることで、脳や内臓の働きが活発になるのです。
嚥下機能が低下していたり、大きな手術の直後でどうしても口から食べられないなどという場合、チューブは胃ろうでの栄養摂取を行うこともあります。
しかし、こうした栄養摂取はやむを得ない場合に限っての手段であると覚えておきましょう。
「ものを食べる」メカニズムを知ろう
なぜ「口から食べること」が重要かについては、脳や体のメカニズムを知ると理解が深まります。
食べ物を見ると、目からの映像情報(視覚刺激)が電気信号として後頭葉へと伝達されます。
この時、どんな色か、どんな大きさかといった情報も合せて認識されます目から情報を得るのとほぼ同時に、
鼻では「香ばしくておいしそう」などの嗅覚情報を得ています。嗅覚は、主に記憶や感情をつかさどる海馬や扁桃体にも伝達されます。
においが記憶と結びつきやすいというのは、それが理由です。
また、舌では「苦い」「甘い」といった味覚を緩和し、脳へと伝達しますし、「どれを食べようかな」などと考えたり、食べるために手を伸ばしたり、口を動かしたり飲み込んだりするときも、脳に刺激を与えます。
咀嚼そしゃくによっても脳が刺激され、記憶や学習などの機能を保つことに貢献している事実も明らかになっています。
また、唾液の分泌は胃腸の働きを促進するのですが、唾液の分泌は、食べるときだけでなく、食べ物を想像したり、実際に見たり、においを嗅いだりしただけでも起こります。
このように、食べることで脳によい刺激が与えられ、内臓の働きもスムーズになれば、要介護状態の悪化を防ぐことも期待できます。
ですから、食事の介護では「身体にいい食事を食べてもらう」だけでなく、いかに「五感を刺激し、食事を楽しんでもらうか」の工夫をすることが重要になってくるのです。
安全な食事介助
安全に食事してもらうにはまず「正しい姿勢」が必要食事の介助で特に気をつけたいのが誤嚥(ごえん)です。食べ物や飲み物が気管内に入り込んでしまわないように配慮し、姿勢のチェックを欠かさないようにしましょう。
なぜ誤嚥が起こってしまうのか?
口から入った食べ物は、通常、咽頭いんとう、食道へと送られます。
しかし、飲み込む力や咀嚼そしゃく機能の低下によって、喉頭こうとうや気管内に入り込んでしまうのです。これを誤嚥といいます。
激しいむせや咳、チアノーゼが起こり、場合によっては死を招くこともあります。
介護職員は誤嚥を起こさないように細心の注意を払う必要があるのです。
あごが上がり、首が後ろに反り返る状態になると、気道が開いて誤嚥しやすくなってしまいます。
そのために食事をとる際は姿勢が重要になるのです。
食事前にチェックしたい正しい姿勢
食卓につくときは、いすに深く腰かけてもらいます。
あごは引き気味が正しい角度。
そり返りを防ぐため、腰かけたときに背筋がまっすぐになるよう、いすと背の間にクッションを入れて調節してもOKです。
クッションで調節する際は、首が後ろに傾いてしまわないよう、肩甲骨のあたりがきちんと支えられるようにセットします。
食べるときは、やや前かがみになるくらいがちょうどいい姿勢です。
「ひとつ上いく介護ポイント」本来は普通のいすに座って食事をしますが、正しい姿勢を保つのが難しければリクライニング車いすやベッド上で食事をします。
高齢者の食生活
高齢者の健康維持のための食事とは健康的でいきいきとした日々を送るためには、食生活に気を配ることが重要です。
施設で勤務する介護職員は献立を考える必要はありませんが、偏食しがちな利用者の場合、栄養素が偏っていないかをチェックするとよいでしょう。
バランスのよい食事とは?
毎日の献立では、たんぱく質やビタミン、カルシウム、食物繊維など、高齢者に不足しがちな栄養素を積極的に、効率よくとっていきたいものです。
また、利用者本人の体質や疾患などを把握し、必要があれば塩分や脂肪分を控えるなどの配慮も必要になります。
バランスのよい食生活の目安を知るために、まず、6つの食品群の分類を把握しておきましょう。
1日30品目を目安に、各食品群からバランスよく、できるだけ多くの種類の食品を摂ることが理想です。
1回の食事で、「主食・主菜・副菜」をうまく組み合わせることで、バランスがとれます。
利用者の食事を見守るときは、バランスよく栄養がとれているか、塩分や脂肪分をとりすぎていないか、よく観察するようにします。
高血圧が気になる利用者には
高血圧の人は、特に塩分を控える必要があります。
味気ない食事だと食欲低下してしまうことがあるので、ただ薄味にするのではなく減塩しょうゆや減塩みそを使う、だしをしっかりとるなどの工夫をします。
また、ヨーグルトや牛乳、小魚などのカルシウムを多く含む食品や、バナナ、山芋、メロン、納豆、ほうれん草などカリウムを多く含む食品には、血圧上昇を抑える効果が期待できます。ただし、腎臓に疾患がある場合、カリウムをとりすぎると高カリウム血症になることがあるので注意が必要です。
利用者が喜ぶ食事をイメージする
高齢者の食事というと、魚や煮物など、和食のイメージがあります。しかし、最近では必ずしもそうとは限りません。
ハンバーグやオムライス、ケーキなどの洋食を好む人が多く見られます。
そのため、利用者にアンケートを実施して食べたいものを献立に反映したり、時にはバイキングやバーベキュー、流しそうめんなどイベントのように楽しめるメニューをとり入れたり、ハンバーガーなどをテイクアウトして楽しんだりすることも、利用者にとってよい刺激になります。
おいしい食事を楽しむことは、利用者の生きがいとなり、生活にハリを与えます。
安全面や栄養面にばかり気をつかうのではなく、利用者が何を食べたいのか把握し、食べることの楽しみを持ち続けてもらうようにすることも、介護職員にとっての大切な仕事といえます。
食事の環境づくり
リラックスして食事ができる環境づくりに配慮する食事の介助で心がけたいのは「安全に、リラックスしながら食事ができるようにすること」です。
「食事が楽しみ」となれば、生活にハリが出て、気持ちだけでなく健康面にもよい変化が期待できます。
食事をする環境を整える
部屋の換気は十分に行い、食事前には新鮮な空気と入れ替えましょう。
食欲は、室温によっても左右されます。
夏場は外の気温マイナス5度、それ以外の時期は人が快適に過ごせる20度前後を目安に室温を調節するといいでしょう。
そして、食卓を清潔にするのはもちろん、目につくところにある汚れ物なども片付けます。
リラックスして食事ができる環境を整えるのはもちろんのこと、誰かに食べさせてもらうよりも、自力で食事ができるほうが、利用者自身も食事を気兼ねなく楽しめます。
たとえば、食器がすべらないように表面加工されたランチョンマットや料理がすくいやすい皿、持ちやすく調整できるスプーンやフォークなど、福祉用具を活用することで、自分で食べることができる場合もあるのです。
利用者の中には、集団で食事をとるのが苦手な人や食べ物の好き嫌いが激しい人もいます。
そうした方には個室で対応したり、好きなものをあらかじめ購入しておいて食べてもらうなど、柔軟な対応が必要です。
正しい配膳の基礎知識
配膳の際に知っておきたいのが、正しい食器の配置のしかたです。
基本の並べ方を知っていないと、利用者から指摘される場合もあるでしょう。
まずは基本の正しい配膳を行い、利用者一人ひとりの様子を見て食べやすい位置に変更する気づかいをしましょう。
手順とやり方
だれでもそうですが、お年寄りにとっても食事は大切な時間です。気を散らすことなく、ゆっくり食べてもらうことが大事です。
介護する側も落ち着いた雰囲気をつくり、お年寄りをリラックスさせましょう。それには、食事に集中できる準備を整えることが大切です。
テーブルでの食事介助
座位が保てれば、できればベットから離れ食卓で食事をとることがよいでしょう。
水分摂取を促すことが大事なので、食事の前にお茶を出します。嚥下障害のある人にはトロミをつけたお茶を出します。
●いすや車いすの座り方
いすには深く腰かけ、テーブルにひじが乗せられるようにいすを引き寄せる。床に足が着いていることを確認する。
●エプロンをかける
介護用エプロンをかけ、テーブルに広げその上に配膳する。
●配茶をする
食事をする前にお茶を出し、水分摂取を促す。
●食事の説明をする
食欲をそそるような声かけをし、ミキサー食のように形のないものの献立も説明する。
【声かけ例】
「きょうの献立は好物のお魚ですよ」「どの料理から食べますか?」
「食べにくくないですか?」「秋なので秋刀魚がおいしいですよ」
●本人と同じ高さで介助する
介護者は本人と同じ高さに姿勢をとる。片マヒのある人の場合は健側(マヒのない側)に座る。自分も食べるような気持ちで介助する。箸やスプーンが歯ぐきや、歯にあたらないようにする。
●汁物から介助する
好みがある場合は好みを聞きながら、汁物から介助し、主食、副食と交互に介助する。
●嚥下障害がある人の場合
本人の食事ペースに合わせ、1回に入れる量を決め、誤嚥のないように気をつける。1回ごとにしっかり飲み込んでいることを確認して、次の分を口に運ぶ。
●片マヒがある人の場合
患側(マヒのある側)の口腔に食べ物を入れると、そしゃくできないことがあるので、その場合は健側の口角から食事を入れる。食べかすが患側にたまるようなら、ときどき首を傾ける。
ベッドでの食事介助
自力で座位が保てない場合は、ベッドまたはリクライニング車いすを利用して食事介助を行います。
食事介助のやり方はテーブルでの介助とほぼ同じです。ベッドの背の角度と介護者の座る位置に気をつけます。
●座る角度
ベッドは本人の状態によって30〜80度くらい起こす。80度くらい起こすと頭が起きあごを引いた姿勢になり、首の緊張がとれて嚥下がスムーズになる
●介護者の位置
上から下へ食物を与えるとあごが上がり、気管に入り誤嚥の原因になる。
まとめ
- 他人に食べさせるというのはなかなか難しいものです。
食事の時間は、介助のやり方一つで、高齢者にとって「楽しみな時間」にもなれば「苦痛な時間」にもなり得ます。
特に高齢者にとって、食事が楽しいかどうかは、生活の質を左右する大きなポイントです。
おいしいものを食べ、毎回の食事を心待ちにすることで、生きる活力が湧き、自立心や前向きな気持ちにつなげられます。
高齢者の気持ちに共感し、「どうすればおいしく食べてもらえるか」を考えながら、適切な介助を行うこと、適切な指導を行うのはもちろん自発的に食べてもらえるように工夫することが大切です。