「助産師」とは何をする人か知っていますか?10年前までは「助産婦」と呼ばれ、戦前は「産婆さん」と呼ばれていました。妊婦と赤ちゃん、そして家族をサポートする助産師。そんな助産師の仕事内容、助産師になるには?活躍できる場所など詳しくまとめてみました。
Contents
助産師とは?
助産師は赤ちゃんが上手に出てくるのを助ける、お母さんが赤ちゃんを産むために自分のもっている力を出すのを助ける仕事をします。
お母さんが自分の力を出しきり、そして赤ちゃんが上手に出てくるためには、妊婦の健康のチェックやおなかの中の赤ちゃんの成長を確認しなくてはいけません。そして、妊婦が出産まで万全の体調を維持するためにどうしたらよいかを一緒に考えます。
たとえば、妊娠中は鉄分が不足し貧血になりやすいので、それを改善するためにはどのような食事をしたらよいか、妊婦が出産に向けて体力をつけるためにどのような運動が適しているかなどです。何よりも精神的な安定が大切なので、妊婦の話をよく聴きます。
出産後は、お母さん、そして家族が、うまく赤ちゃんを育てていけるようにサポートします。新米のお母さんは、赤ちゃんのオムツを替えたり、母乳をあげたりすることも上手にはできません。助産師は、お母さんと赤ちゃんに寄り添い、そのやり方を丁寧に話していきます。赤ちゃんがちゃんと成長しているのか、外の世界に適応しているかを観察するのも助産師の大切な仕事です。
助産師の具体的な仕事内容は?
助産師の仕事内容は、妊婦や胎児の健康状態を診たり、出産の援助を行うだけでなく、母親になるための準備を一緒にしたり、いのちの大切さを伝えたりと、さまざまなところで母子とその家族を支えています。
妊婦健康診査(妊婦健診)
妊婦健康診査は、妊婦と胎児の健康状態を確認し、そして妊婦がより健康的な生活ができるようアドバイスします。これまで、病院では、助産師は主に病棟や分娩室で仕事をしていました。しかし、最近は「助産師外来」といって、助産師が外来で妊婦健診を行うようになってきています。
妊婦健診では、まず妊婦の健康状態を査定するための、血圧や体重測定、尿検査をします。次に胎児の成長を診るため、超音波検査と触診、そして胎児の心音を聴き、母子手帳へ記入をします。
健康相談も重要で、つわりや腰痛、足のむくみなど妊娠によるさまざまな症状に対し、日常生活での対応方法をアドバイスします。また、不安や心配なことなど話をよく聴いてそれぞれの妊婦に合った解決方法を一緒に考えていきます。
出産の援助
助産師は、出産施設にやってきた妊婦や家族を温かく迎えます。そして分娩進行状態、妊婦の健康状態、胎児の状態を確認し、妊婦と胎児に異常が起こっていないかを注意深く観察します。
陣痛など出産の際の痛みに対しては、腰やお腹のマッサージ、痛いところを温める、お風呂に入る、歩く、妊婦の姿勢を変えたりとそれぞれの妊婦に合わせて援助します。妊婦に寄り添い、不安を取り除き、出産に前向きに取り組めるよう励まします。また、出産に立ち会う家族の心のサポートも大切にします。
分娩が進行すると、赤ちゃんが生まれる準備をします。清潔なシートをしき、分娩時に必要な医療機器を準備します。出産のクライマックスでは母親と赤ちゃんのペースに合わせて出産を助けます。柔らかな雰囲気をつくりながら母親と赤ちゃんの異常がないか注意して観ていきます。
自宅出産の介助
自宅出産をサポートしているのは主に開業助産師です。助産師が妊婦の家に訪問してケアを行うため、胎児の心音を聴く器械、血圧計など必要な器械をすべて持ち歩き、どんなときにも対応できるよう備えています。
慣れ親しんだ家で家族とともに迎える出産は穏やかな場合が多いのですが、異常の兆候がみられたときには、すぐに病院に搬送します。そのため日ごろから病院との連携体制をつくることが何よりも大切です出産後の数日間は毎日訪問し、母子の健康状態の観察や新生児の沐浴や授乳の介助を行います。
出産準備・育児クラスの運営
母親と家族が出産を迎えるための準備と新たにはじまる育児のために、知識と技術を伝えるクラス運営があります。最近では、従来からある母親学級に加え、父親も出産育児に積極的に取り組めることを目的とした両親学級、妊婦が自分の身体と向き合い健康的に妊娠・出産を迎えるためのマタニティヨガやマタニビティクス、赤ちゃんとのコミュニケーションを促し育児を楽しむためのベビーマッサージなどさまざまなクラスの企画および運営が行われています。また、妊婦同士をつなぐコーディネーターの役割も担っています。孤立した子育てが問題になっている昨今ではとても重要な役割です。
いのちの大切さを伝えるクラス
日本助産師会では、幼児から高校生までの子どもたちに対して「いのちの教室」を行っています。子供たちのいじめ、自殺が大きな社会問題となっている今、いのちのはじまりから出産にいたるまでの過程を分かりやすく説明し、いのちの大切さを人々に伝える役割を担っています。
グリーフケア(両親の悲嘆へのケア)
生まれてくる前にお母さんのおなかの中で亡くなってしまった赤ちゃんを死産といい、両親にとっては非情に辛く悲しいものです。死産により子供を亡くした両親の悲嘆のケア(グリーフケアと呼ばれています)も、助産師の役割の1つです。
助産師の活躍できる場所は?
助産師の多くが病院(助産師の約65%)と診療所(22%)で働いています。助産師は「開業権」をもっていますので、地域で助産所を開業している助産師もいます。(約6%)また、主に母乳相談や新生児訪問を行っている助産師もいます。それぞれ、活躍している場所での仕事はどのような内容でしょうか。
病院の産婦人科外来・分娩室
産婦人科外来では妊婦健診、分娩室では陣痛がきて入院する方の出産の援助をします。
病院の産科病棟
母の身体状況を観ます。子宮の収縮、出血量、出産時の傷の状態、血圧や脈拍を測定し、全身状態を査定します。特に大切なのが、乳房の状態や授乳の様子の観察です。授乳のしかた、抱っこの方法、おむつの替え方など1つひとつやり方を説明し、母親が自分でできるようになるのを見守ります。産後6日間の入院の間に、身体と心を癒し、育児に前向きな気持ちをもってもらうことが大切です。
新生児室・NICU
新生児室では、体温の調節がまだむずかしい生まれたばかりの赤ちゃんを「保温」するのが最も大切なケアポイントです。そして、肺呼吸をはじめたばかりの赤ちゃんの「呼吸の観察」が欠かせません。
新生児集中治療室(NICU)では、小さく生まれた赤ちゃん、病気をもっている赤ちゃんが入院しています。保育器の中では胎内環境にできるだけ近づける努力がされています。赤ちゃんに愛情をもってケアすること、退院して離ればなれになっている家族が赤ちゃんに愛着がもてるようケアすることも大切です。
助産所
助産師は、医師と同様に「開業権」が与えられており、助産所を開設することができます。助産所の助産師の仕事は内容は多岐にわたります。
・妊婦健診(妊娠から出産、育児までの継続ケアの提供:同じ助産師が診る)
・分娩介助
・産後の母子の観察とケア(産後入院中)
・産後健診(数週間後、1ヶ月後)
・母乳相談
・出産準備
・育児クラスの実施
・助産所管理業務(掃除や食事の準備、会計、予約受付、事務作業など)
・地域の母親学級や育児相談 など
助産師になるには?合格率は?
助産師になるためには、まず「看護師免許」を取得する必要があります。そのうえで、1年以上、必要な科目を修めなければならないと定められています。
助産師になるための2つのルート
1つ目は、看護大学の4年間のなかで「助産のコース」を選択して、助産師の資格を取得するルート。看護師課程と助産師課程の両方を修了し、看護師国家試験と助産師国家試験の両方に合格して、それぞれの国家資格を取得します。
2つ目は、看護大学(4年制)・短大・専門学校(3年制)で看護師課程を修了し、看護師国家試験に合格して国家資格を取得。卒業後に大学や短大の専攻科・別科、専門学校(1年)、大学院(2年)などで助産師課程を修了して、助産師国家試験を受験するルートです。
それぞれの教育課程には、特徴があります。大学院の2年間では、助産師の国家試験受験資格に加え、理論や研究方法を学び、修士の学位を取ることができます。大学や短大の専攻科・別科、専門学校は、助産師になるための楽手を集中的にするので1年間で終了できます。同じ1年の教育課程であっても各学校独自のカリキュラムがありますので、科目や実習期間などが異なっている場合もあります。
助産師国家試験の合格率
助産師国家試験の合格率は以下のとおりです。
2020年 99.4%
2019年 99.6%
2018年 98.7%
助産師の合格率は前年と比べマイナス0.2ポイントの微減。いずれの年も高い合格率です。
まとめ
助産師は赤ちゃんが上手に出てくるのを助ける、お母さんが赤ちゃんを産むために自分の持っている力を出すのを助ける仕事。
助産師のキャリアは産婦人科外来、新生児室やNICU、開業して助産所で働いたりとさまざまです。
仕事内容も妊娠検診や出産の援助、新生児のケアや出産準備クラスの運営など多岐にわたります。
助産師になるためには、専門的な知識と高い技能が必要です。座学と実習を修め、毎年2月に行われる国家試験をパスすると、晴れて助産師になれます。決して簡単とはいえない道のりですが、母と子のいのちをあずかる仕事です。責任が重い分、やりがいも大きいでしょう。